『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』に見る、現代アメコミ映画のヴィラン像
『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』に見る、現代アメコミ映画のヴィラン像
─ ジョーカーやヴェノム、サノスまで
「悪いことをしてはいけない」と教わってきたはずなのに、どうしてこんなにも悪の物語に惹かれてしまうのか。ごく普通の男が“悪のカリスマ”となる『ジョーカー』(2019)の歴史的ヒットは、世界中の観客が“悪の魅力”に夢中になることを証明した。
2020年3月20日(金)公開の最新作『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の主人公は、ジョーカーの恋人として愛されてきた女性ヴィランのハーレイ・クイン。そう、本作もまた、まぎれもなく“悪の映画”だ。『ジョーカー』も記憶に新しい今、ハーレイ・クインというキャラクターの魅力を、近年のアメコミ映画が描いてきたヴィランの傾向を交えながら紐解いてみることにしよう。
クレイジーでキュート、ハーレイ・クインの魅力
底抜けにキュートでセクシー、そしてポップ。『スーサイド・スクワッド』(2016)で初めて実写化されたハーレイ・クインは、コミックの世界で愛されてきた魅力を、スクリーンでも存分に発揮した。演じたのは、その後『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)『スキャンダル』でアカデミー賞&ゴールデングローブ賞にノミネートされたマーゴット・ロビー。実写版ハーレイは、観客の性別を問わず世界中を魅了し、映画というメディアを超えたファッションアイコン的な存在にさえなったのである。
それにしても、なぜハーレイはこれほどの人気をつかんだのか。『スーサイド・スクワッド』には、百発百中のスナイパーであるデッドショットや、炎を操るエル・ディアブロ、ブーメランを鮮やかに操るキャプテン・ブーメラン、爬虫類の皮膚を持つキラー・クロックなど、それぞれに個性的で、特筆すべき能力を持ったヴィランが多数登場した。強豪たちの中でハーレイがずば抜けた支持を得られた理由は、決して、コミック由来の人気にはとどまらなかっただろう。
ハーレイ・クインが愛された大きな理由は、そもそも彼女が“ブッ飛んだ”パーソナリティの持ち主であることだ。もともと精神科医のハーリーン・クインゼルだった彼女は、ジョーカーとの出会いを経て、肉体的・精神的に変貌してしまった。決定的にモラルを欠いているハーレイは、からりとした明るさと活発さ、そして子どもっぽさで、いともたやすく悪行に手を染めていく。『スーサイド・スクワッド』でショーウインドウをバットで叩き割り、バッグをつかんで「私たちは悪者。これが仕事でしょ」と言い放つ場面は象徴的。そもそもハーレイは、何をおいても「楽しいこと」が第一なのである。
一方で、ハーレイは“ひとりの女性”にほかならない。多くのヴィランとは異なり、ハーレイは特殊な能力を持っていないのだ。バットやピストル、ハンマーなどを操りはするが、目を見張るほどの戦闘力はないし、実際に『スーサイド・スクワッド』では敵の攻撃に必死で応戦してみせる。彼女は戦いを楽しみながら、敵を倒した時には安堵する素振りも見せるのだ。また、チームの一員でいる時は生意気かつ挑発的でも、一人になれば、ジョーカーを思い出して寂しげな表情を浮かべることもある。くるくると変わる表情は、彼女が“悪”である以前に人であることを教えてくれるだろう。
思えば、大ヒットした『ジョーカー』は、貧しい生活の中で懸命に暮らしている生真面目な主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)が、あらゆるものを失いながら、人として越えてはならない一線を踏み越えるまでの物語だった。同作が描いた「優しい男が悪のカリスマになる」ジョーカーの物語と、マーゴットが演じる「狂えるヴィランにも人間としての側面がある」ハーレイ・クイン像は、いわばコインの裏と表だ。
コメント 0